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国道157号 温見峠越え

福井県と岐阜県は隣り合う県で、県境もそれなりの距離になる。この2県の県境を国道でぬけようとするならば2つの選択肢があがるのだが、県境は険しい山であるために、その両方ともが厳しい峠越えルートとなっている。その2つの峠越えルートとは、国道157号・温見(ぬくみ)峠と国道158号・油坂峠なのだが、ここでは前者の国道157号・温見峠越えの実態をレポートすることにしよう。

1999年11月8日(月)、ファンカーゴ(トヨタ)を借り、友人とともに福井県側から岐阜県側へと抜けた。福井市内では結構な雨だったが、国道157号を走るにあたってはせいぜいぱらつく程度で、ときには太陽が顔を見せるほどの天気となった。

《 五条方(福井・大野市)〜温見峠(県境) 》

国道157号は石川県金沢市と岐阜県岐阜市を結んでいる。しかし、今回は福井県大野市からの区間を走った。大野市街を抜けて、少しのあいだは平野部を走っていくのだが、五条方付近から山の中に分け入っていく。といっても、しばらくのあいだは、2車線の十分な幅の道路だ。

真名川ダムを左手に見ながら心地よく進んで行く。ところが、ダムの湖部分を過ぎきり、真新しいトンネルをいくつか過ぎると突然に1車線の貧相な道路に変わってしまうのだ。右側の山の斜面が落石止めの柵を破って崩れているところがあったりして、酷道の雰囲気は十分に出ている。しかし、まだ舗装はアスファルトであり、この程度で驚いてはいけない。

しばらくは山の中を走っていたのだが、突然に開けた盆地に出る。といっても、集落といえるものはなく、非常に寂しい。家もあることにはあるが、恒常的に使われているのかは不明だ。

温見川に沿って峠を目指すのだが、途中から遂にアスファルト舗装でなくなる。非常に荒れていて走りにくいし、乗り心地も悪い。また、川側にガードレールはなく、道路には白線などない。夜は非常に走りにくいのだろうが、夜にここを走る車などないのだろう。

ガードレールがひしゃげた橋があったりと、かなり荒れた道を進んでいく。途中で名古屋ナンバーの車とすれ違い、峠を越えてきたのだろうと思いながら行くと、温見峠の登りにさしかかる。もちろん登りにさしかかってもコンクリートの舗装は続くのだが、カーブ周辺がアスファルトになっていたりもする。そうして峠につくのだが、本格的な登りにかかってからはすぐだった。温見峠は1000mを超すのだが、多分それまでにかなりの標高まで上がっていたからだろう。

《 温見峠(県境)〜黒津(岐阜・根尾村) 》

さて、峠なのだが、福井側には県境標識はあるが、岐阜県側には県境標識はない。かわりにあるのは、ここより15kmほど先以降は大型車は通行不可だという看板だ。地図などにもあったが、どうやら福井県側より岐阜県側の方が狭いらしい。

右手に能郷白山が見える温見峠を後にし、岐阜県側を下って行くのだが、しばらくのあいだは道路の幅もセンターラインこそないが、すれ違うには十分な幅だ。この先本当に狭くなるのだろうかと疑問に思いながら行くと、そこはこの酷道、十分期待に応えてくれる。

またも狭くなり、酷道の雰囲気が出始める。そして、路上に落ち葉がたまっていてその雰囲気をさらに高めている。そして遂には路上を川が横切っているところまで現れた。それもたまたま水が多いからというのではなく、路面の構造からいってもとから路上に水を流すようになっているのだ。しかし、この後、想像を絶するものに我々は遭遇した。

なんと、未舗装区間が現れたのだ。(写真でいくと、上の3枚の左。さらにもう一つ上、6枚の右下。路肩に木が置いてあるのは路面が流れないようにしているのだろう。) しかし、この国道、制定しただけで、整備する気はないのだろうか。路上の川を越えた付近で工事をやっていたから、整備する意思はあるのだろうが、それにしても未舗装とは驚異的だ。

その未舗装区間もすぎ、アスファルト舗装になってしばらく行くと、黒津付近で大型車は左に折れろという看板が出る。どうやら、最狭路区間が迫っているようだ。

《 黒津(岐阜・根尾村)〜能郷(同左) 》

何度か「この先大型車通行不可」の看板を見ながら進むと、遂に、ここより先を大型車が通れないようにするというポイントに至る。それを過ぎると本当に車幅ぎりぎりといった極狭路が現れた。ガードレールが所々にあり、白線もあるからいいようなものの、断崖絶壁のところに無理やり道路を造った感じで、非常に怖い。すれ違えないところが長きにわたってつづき、対向車がこないことを祈りつつ進んだが、対向車が来てしまった。しかし、対向車に少し下がってもらい、なんとか離合ができた。それにしてもどうしようもない国道だ。

その極狭路区間もあまり長くは続かず(といっても、走っている間は結構あるように思うのだが)、5kmほどで終わる。しかし、極狭路区間の終わり部分には「危険 落ちたら死ぬ!!」という異常ともいえる看板が設置されていて、通ってきたところの凄さをあらためて思い知らされることになるのだ。

少し行けば集落に出て、この長かった酷道区間もようやく終わりを告げる。このあとはときどきセンターラインのない区間もあるが、すれ違うのには全然苦労はなく、快適に岐阜市方面へと下って行くことが出来る。

以上が、国道157号・温見峠越えの実態だ。ここでは3区間に分けてのレポートとしたが、3区間ともに「酷道」という観点から見ればマニアを喜ばすには十分過ぎる(あるいは、マニアでも途中で飽きてしまうかもしれない)道路だ。これこそ酷道の極みといった道なのだが、それなりに通行があったのには驚いた。やはり一般的観点から言えば、そして「157」という番号の若さを考慮して、整備は進めるべきなのだ。

今回我々が調査に行ったのは11月の始めではあったが、峠付近では紅葉は終わりに近づいていた。山はもう冬が近い。この道は12月に入ると、大野市若生子(真名川ダム付近)から根尾村能郷までの約50kmにわたって冬季通行止めになるということだ。国道157号・温見峠は春までしばしの眠りにつくことになる。